「めぐり逢う理由」 梗概(あらすじ)

 時代は大正五年、第一次世界大戦の影響で日本中が大戦景気に沸き立っていた頃、熊野川の支流が海へと流れ込む、見せ掛けの幸福に浮かれた町の片隅でひとつの小さな恋が生まれた。それは、欲しいものは何でも揃っていた街で、自分の欲しいものを見つけることができなかった少女の小さな胸の中で生まれた。

 生まれて初めての恋に、少女は戸惑い、悩み、そして、やがては愛しいその人の優しい温もりに包まれていく。純朴で飾らない、しかし、確かな強さと優しさを持ったその人に、少女は自分の気持ちを伝えようとするが、少女に課された運命はそれを許してはくれなかった。少女の伝えたかった言葉は、少女が命がけで守ろうとした橋とともに流された。

 少女の突然の死とともに、悲しみの中その生まれたばかりの小さな恋も終わりを告げたはずだった。だが、それは終わりではなかった。亡くなった少女の魂は、時も超え大切なその人を想い続ける。

 もう一度、その人とめぐり逢えることを信じて。あの時、伝えられなかった言葉を伝えるために……。

  それから八十年後、少女が亡くなった同じ町で、『美雪』という名の女の子が生まれた。それは、千年に一度と言われた猛烈な台風による洪水で、町にかかる橋が流された翌年のことであった。橋が流されてから五年後、美雪が四歳になった時、およそ四百年の歴史を持つ橋は元の形に復元された。破壊と再生を繰り返すその橋は、遠い昔、亡くなった少女が命がけで守ろうとした橋だった。

 橋の再生とともに育った美雪には、五葉電機という大企業の三代目としての将来が約束されていた。幼い頃から母親に厳しく躾けられた美雪は、成長して誰もが羨む美しい才女となるが、美雪には大人になっても忘れられない、幼い頃の大切な思い出があった。

  美雪が幼い頃に通っていた幼稚園は、裕福な家庭の子供ばかりが通う一流の幼稚園だった。そこにある日、再建された橋の向こうにある村から、ひとりの少年がやってきた。見るからにみすぼらしい身なりのその少年は、園児たちが帰った後、少年の叔母さんと一緒に幼稚園の掃除をするのが彼の仕事だった。

 美雪の母親は、その少年と関わらないよう、美雪に言い聞かせるが、美雪は自分をいじめっ子から守ってくれるその少年のことが好きだった。美雪はその少年を『げんちゃん王子』と呼んだ。

 その後、一家でアメリカに引っ越すことになった美雪は、げんちゃんと離れ離れになってしまう。優しいげんちゃんの温もりと、げんちゃんの使った魔法の言葉を胸に秘め、美雪は日本を後にする。

 

~目次~

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