2019-10-24から1日間の記事一覧

「あなたへのダイアリー」 (第四章 おやしろ祭)-6-

決勝戦進出の記事の横には、進出を決めた時に撮ったチームメートとの記念写真が飾られていた。亮介は三十年近く経った今でも、みんなのことを考えると申し訳ない気持ちでいっぱいになる。亮介がチームメートの前で謝罪した時、町の人間とは対称的に、誰も亮…

「あなたへのダイアリー」 (第四章 おやしろ祭)-5-

「亮介! がんばれ。俺たちが付いているぞ!」 この年、英徳高校の野球部は快進撃を続けていた。いつも二回戦敗退だった野球部は、気がつくとすでに決勝まで勝ち進んでいた。何と言っても、三回戦で対戦した甲子園出場の常連校である、宮城志津石高校に延長…

「あなたへのダイアリー」 (第四章 おやしろ祭)-4-

優子が学校から帰ってきて、店の雰囲気は随分と明るくなった。優子自身も亮介がいるせいか、少しはしゃいでいるように見えた。父親を知らずに育った優子にとって、この時の亮介はいったいどんな存在であったのだろうか。もちろん、今、奥の座敷で飲んでいる…

「あなたへのダイアリー」 (第四章 おやしろ祭)-3-

その後、しばらくはありきたりの世間話をした。座敷の客はサラリーマンらしく、お決まりの上司の悪口に花を咲かせている。 「大将! 生ビールちょうだい! 二つ、いや三つね」 奥 のサラリーマンから再び声がかかった。 「あいよ! 今、持っていくよ」 大将…

「あなたへのダイアリー」 (第四章 おやしろ祭)-2-

「いらっしゃい! あっ、毎度どうも」 亮介が店に入ってきたことに気が付き、背中を向けて鍋を転がしていた大将がこちらを振り向いた。 「こ、こんばんは」 亮介は少し気まずそうに、店の入口に置いてある上着掛けに自分の上着をかけてからカウンターの一番…

「あなたへのダイアリー」 (第四章 おやしろ祭)-1-

おやしろ祭 「近いうちにまた……」 きみ寿司にまた行くことを亮介はそう言って優子と約束したのだったが、その約束を果たさないまま、気が付くともう、既に一週間が過ぎていた。 ひょんなことから、駅前の写真館で働くことになってしまった亮介は、意外にも充…

「あなたへのダイアリー」 (第三章 生まれ変わり)-5-

『あんなこと』とは何のことか、亮介はもちろんそのことを知っていた。老人は、目の前でうつむいているこの男が中谷亮介本人であることなど思いもつかず、当時何があったのか、どうして英徳高校の野球部が甲子園に行けなかったのかをことこまかに話した。そ…

「あなたへのダイアリー」 (第三章 生まれ変わり)-4-

翌日、亮介は新聞社との契約を継続しないことを正式に決めた。戦場で命を懸けて働いたが、雇われカメラマンは電話一本でその手続きが完了した。 電話を切った亮介は、昨日、フクベェの前で出会った優子のことを考えていた。フクベェの陰から飛び出してきた優…