2019-10-29から1日間の記事一覧

「めぐり逢う理由」 (第二章 げんちゃん王子)-1-

げんちゃん王子 あの頃……。そう、美雪がまだ幼かった頃、美雪の住む町の外れに新しい橋が架けられた。 美雪の住む町は、大手企業の進出などでこの二十年くらいの間に急速に発展した町だった。何棟もの高層マンションや巨大なショッピングモールもあり、鉄道…

「めぐり逢う理由」 (第一章 百年前の恋)-12-

海部の部下たちが橋の階段を上ろうとしたその時、残っていた二つの橋が轟音とともに崩れ始めた。 『一つは三つにあらず、三つは一つにあらず』 橋の看板の消えかけた文字が浮かび上がり、橋は対岸から順番に倒壊した。 「キャー!」 多み子と新吉は崩れ落ち…

「めぐり逢う理由」 (第一章 百年前の恋)-11-

龍背大橋に向かう馬車に乗るのはこれで三度目だ。一度目は奈美と一緒に龍金堂で玉簪を買ったとき、二度目は龍背大橋の祭りを見に行った時、そして今日、新吉に会うために再びこの馬車に乗った。 この時期、他所より少し遅い十一月の初め、新吉は稲刈りが忙し…

「めぐり逢う理由」 (第一章 百年前の恋)-10-

多み子が男と町で会っている。 そんなうわさ話が虎之助の耳に入ったのは、多み子が新吉のために縫った作務衣がようやく出来上がったころだった。多み子に熱心に求婚していた男の一人、海部義則に偶然、新吉と会っているところを見られたのだった。 「多み子…

「めぐり逢う理由」 (第一章 百年前の恋)-9-

祭りの終わりは次の季節の始まりでもあった。鱗雲が空を流れ、太陽と月の光が交わる黄昏れ時の乾いた風にススキの穂が寂しそうに揺れ動く。 秋になって、恋する少女は前にも増して綺麗になった。相変わらず虎之助の行く夜会に連れ出されていた多み子であった…

「めぐり逢う理由」 (第一章 百年前の恋)-8-

「新吉さん?」 「ん?」 「この橋って、いつ頃からここにあるんですか? お祭りはその頃から?」 「まあ、詳しいことは分からんが、村の長老の話によれば、三百年くらい前からあるようじゃがのう」 「そんな古くから?」 「祭りもその頃からあったらしいが…

「めぐり逢う理由」 (第一章 百年前の恋)-7-

果たしてその日はやってきた。予想した通り、多み子は祭りに行くことを嫌がったが、これもまた予想通り、龍金堂の主人の話をすると渋々だが了承した。 「奈美ちゃん、遠くから見るだけよ。ほんとよ」 「分かってるわよ。大丈夫よ。心配しなくても」 二人はこ…

「めぐり逢う理由」 (第一章 百年前の恋)-6-

それから一週間後の日曜日、龍金堂の前でひとり仁王立つ、奈美の姿があった。多み子のためにも、どうしてもはっきりさせたいことがあった。荒くれ者と龍金堂の娘がどういう関係なのか。恋人同士なのか、そうでないのか、もしも、恋人同士だとしたらもう結婚…