2019-10-22から1日間の記事一覧

「あなたへのダイアリー」 (第三章 生まれ変わり)-2-

寺をあとにした亮介は、昔の記憶を頼りに太田原商店を探していた。フクベェへの手土産としてそこでピーナツを買うつもりだった。できれば昔、貴美子が買っていたものと同じものがよかったが、二十七年も前のお菓子が今も売られているのかどうか、亮介はあま…

「あなたへのダイアリー」 (第三章 生まれ変わり)-1-

生まれ変わり 貴美子がどこに埋葬されているのか、それについて亮介は、ひとつだけ思い当たる場所があった。亮介が貴美子と知り合った時、貴美子の母親は既に亡くなっており、一度だけ二人で墓参りに行ったことがある。 貴美子の母親は、貴美子の家から少し…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-10-

亮介は本当は貴美子のことについて、目の前にいるこの貴美子の父親にすぐにでも聞きたかったが、予定外に突然店に入ることになってしまい、どう話を切り出せばよいかわからずにいた。それに、あの優子とかいう少女、この大将にとって孫ということは、貴美子…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-9-

それが、二十七年前、亮介が牧村貴美子と過ごした青春の思い出だった。 「懐かしい……。何もかも」 亮介は、あのナイロビで受け取った貴美子からの手紙に書いてあったことが、いまだに信じられずにいた。このまま、今、遠目に見えているあの暖簾の奥の店の戸…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-8-

亮介は、勉強はいまひとつだったが、ピッチャーとしては優秀だった。こんな田舎町の高校の野球部でも、今年は甲子園も夢じゃないと地元は大いに盛り上がっていた。それに、亮介は普段は締まりのない顔をしているが、こと野球になると貴美子が惹かれたように…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-7-

ところで、他の生徒とは違って亮介は友部に対して対等だった。いや、どちらかと言うと友部の方が亮介に対して一目置いていたようだ。それには、こんなわけがあった。 友部には和也という五つ上の兄貴がいた。その和也が昔、亮介がまだ小学生だった頃、亮介に…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-6-

次の日、英徳高校の三年一組の教室ではちょっとした事件が起きていた。貴美子が突然学校にやって来たのである。三年一組の男子生徒はもちろん、他のクラスの生徒まで貴美子を見にやってきて騒ぎになっていた。 「牧村のやつ、いったいどうしたんだ? 突然学…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-5-

きっかけは作ったぞ。後は、お前次第だ。ガンバレ! おせっかいな担任より 山下からのその短いメッセージを読み終えると、貴美子は改めて亮介に礼を言った。 「わざわざ届けてくれて、ありがとう」 「……」 亮介は、そう言って微笑んだ貴美子に再び釘付けにな…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-4-

貴美子は相変わらず学校へは行かなかったが、写真館の店主に亮介の写真をもらって以来、ひとりで英徳高校の野球部の試合を見に行くようになっていた。野球部の試合にはいつも、商店街の野球好きのおやじたちと、応援団の生徒が数人来ていた。試合によっては…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-3-

貴美子が亮介のことを初めて知ったのは、貴美子が転校して来てから三か月ほどが経った頃、長く厳しかった冬もようやく終わりを告げ、なごり雪が、土の中から顔を出したばかりのふきのとうを「まだ早い」と覆っては見たものの、すぐに溶けて無くなった、三月…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-2-

高校三年の始業式の日、亮介はクラス担任の山下から、その日、始業式を欠席した『牧村貴美子』という生徒に届け物をするよう頼まれた。亮介はその生徒のことを知らなかったが、山下は貴美子の家が、亮介の家の近くだからという理由で頼んできたらしい。 実は…

「あなたへのダイアリー」 (第二章 きみ寿司)-1-

きみ寿司 東北の春は遅い。しかし、いったん春が訪れると、あたりの風景は一変する。 アフリカを発って丸二日、日本に着いた亮介は、今、宮城へと向かう電車の中にいた。そこは、亮介の生まれ故郷であり、牧村貴美子とともに短い青春時代を過ごした思い出の…